本研究は、集団認知事態でのステレオタイプ的反応の生起に感情がどう影響するかを検討する目的で行われた。研究期間は平成7年度と8年度の2年間である。これまでの研究では、感情が生起するとそれがポジティブであれネガディブであれ、情報処理容量が費やされるため、認知資源を節約できるステレオタイプ的反応が増大することが指摘されてきた。しかし、ポジティブ感情とネガティブ感情では、主体の活動における機能的意味が異なり、まったく同じメカニズムでステレオタイプ反応を引き起こしているとは考えにくい。そこで、ポジティブ感情とネガティブ感情の集団認知における影響過程の相違を明らかにするために、錯誤相関パラダイムを用いた実験により検討した。平成7年度は刺激を作成するための予備的研究を行った。平成8度は大学生48名を被験者として個別に実験を実施した。映像刺激により被験者の感情状態を人為的に操作したうえで、ステレオタイプ的知識を必要とする社会的判断を求めた。判断対象の社会的カテゴリーには被験者の在籍する大学とその近隣にある3つの大学を用いた。それらは、被験者の大学生の間でステレオタイプ的知識が確立されていたからである。各大学の学生の特徴を記述した文を提示して真偽判断を求め、事後に各文の生起頻度を評定させた。その結果、ポジティブ感情もネガティブ感情もステレオタイプ的認知を促進することが確認されたが、そこで働いているメカニズムは双方で異なっていることが明らかとなった。ポジティブ感情はステレオタイプに合う事象の記憶内への採り入れを促進することが示され、ポジティブ感情には既有知識に合う事象に対する感受性を高める効果があると考察された。一方、ネガティブ感情はスレオタイプに合わない情報の想起を抑制することが示された。ネガティブ感情には記憶検索の既有知識に合う事象に限定してしまう作用のあることが推察された。
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