研究概要 |
本研究の初めの二年間は,集団で話し合うプロセスで生まれる様々な心理的要因が,集団の創造的なアイディア生成を抑制することを明らかにしてきた。これに対して,最終年度の本年は,まず,(1)集団で討論して創造的なアイディアを生成していくことを促進する条件を明らかにすることを試みた.さらに,(2)三年間の実証的知見を整理するとともに,今後の研究展望と具体的課題について総合的議論を行ってまとめた. はじめに,話し合いの過程で生じる抑制的影響をリカバーして;促進的影響をもたらす変数として,メンバーの多様性に注目して実験を行った.その結果,メンバーの属性(性別や専攻)の多様性は,自分とは異なる発想に出会う機会の増加をもたらし,認知的葛藤を高めたことがわかった.そして,この認知的葛藤は,情緒的葛藤のようにコミュニケーションを阻害するのではなく,逆に,集団創造性の抑制要因の中核をなすプロセス・ロスの根源である他者への依存心を生じさせにくくし,お互いの発想を刺激して,創造的アイディアの生成を促進することを明らかにした. 本研究のまとめとして,集団で話し合う過程においては,「社会的手抜き(socialloafing)」に代表されるプロセス・ロスやコミュニケーションの構造化等の要因による抑制的影響は不可避であるとの前提に立つことの重要性を指摘した.そして,本研究も含めて,従来の研究が,初対面の被験者からなる一時的集団を研究対象としてきたが故に見逃してきた重要な変数に目を向ける必要性について論及した.今後,現実の要請として,集団レベルの創造性を高める具体的手だてを心理学的観点から明らかにする取り組みが求められることをふまえ,メンバーどうしで情報処理の役割分担がなされている集団を対象とする研究および,結論の報告先に関する知識等のメタ知識の影響を明らかにすることなど,今後の意味ある研究課題について議論してまとめた.
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