本研究2年次の平成8年度は、研究目的の1つである、成人女性のアイデンティティ発達に及ぼすケア(世話)役割の影響、つまりケアする役割を担うことが、女性にどのようなアイデンティティ葛藤と発達をもたらすかについて検討した。 <研究I>育児期の女性のアイデンティティ危機と発達に関する研究 個としてのアイデンティティと母親アイデンティティの統合・葛藤という視点から、育児期の女性のアイデンティティ態様とそれに影響する家族要因について分析した。幼児をもつ147名の母親を対象に質問紙調査を実施したところ、I統合型、II伝統的母親型、III独立的母親型、IV未熟型の4態様が見出された。I統合型の母親は、IV未熟型の母親よりも過程生活によく満足しており、II伝統的母親型の母親よりも夫からよく理解・受容されていると認知していた。夫との肯定的な関係や家族に対する積極的関与は、個としてのアイデンティティと母親としてのアイデンティティの統合を支えるものであることが示唆された。 <研究II>高齢者介護によるアイデンティティ葛藤と発達に関する研究 高齢者介護者が介護役割を通じて体験するアイデンティティ葛藤と発達感、およびそれに関連する要因について検討した。I在宅介護者群、II高齢者施設職員群、III介護体験のない群、122名を対象に、質問紙調査を行った。I〜III群間の成長感得点には有意差は見られなかった。しかし、I在宅介護者群の得点には、著しい個人差が見られた。そのため、成長感の程度とアイデンティティ意識、介護に対する感情、被介護者への接し方、被介護者の人生の受けとめ方の関連性を分析したところ、介護者のアイデンティティ意識が高いこと、介護に対する肯定的感情、被介護者の人生の受容が、介護者の側の成長・発達を促進させることが示唆された。
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