本研究最終年度の平成9年度は、高齢者介護者を対象に、成人女性のアイデンティティ発達に及ぼすケア役割の影響、つまりケア役割を担うことが女性にどのようなアイデンティティ葛藤と発達をもたらすかについて検討した。 1.老親の介護役割を担うことによる葛藤(アイデンティティ危機)にはかなりの個人差が認められたが、介護者のアイデンティティ意識が高いこと、介護に対して肯定的な感情を有していること、被介護者の人生を受容できていることが、介護者の側の成長・発達間を促進させることが示唆された。 2.面接調査によって、高齢者介護者が、介護役割と被介護者の老いと死を受容していくプロセスを分析したところ、「衝撃⇒否認⇒怒り⇒抑鬱⇒受容⇒目標⇒昇華」という特徴的なプロセスが見出された。また、「抑鬱」の段階で介護に関する情報や介護サービスの提供など、適切なサポートが、介護者の介護役割や老いと死の受容プロセスを助けることが示唆された。 「育児期の女性のアイデンティティ葛藤と発達に関する研究」(本研究1・2年次)および、「高齢者介護によるアイデンティティ葛藤と発達に関する研究」(本研究2・3年次)の現時点での結論は、成人期のアイデンティティは、「個としてのアイデンティティ」と「関係性(ケア役割)にもとづくアイデンティティ」が等しい重みをもち、相互に影響を及ぼしながら発達していくということである。
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