本研究では、教室内に置かれた道具類や展示物、文字メッセージ-ここでは、「教室内ディスプレイ」と総称する-を中心にして、教室環境の構造分析を行うことによって「かくれた文化コード」を明らかにすることを目的とした。三重県内および周辺の規模の異なる小学校約72校102クラスを対象として、教室内ディスプレイの実態調査と内容分析を行った。出身校の学生が現地観察を行ない、教室内ディスプレイの観察および記録(写真撮影)を行い、それらの観察データに基づいて、1)教室内のディスプレイの内容の表示(写真および筆記録)と内容の分類、2)各ディスプレイの内容・利用のされ方についての一次的解釈・コメント、3)担任教師へのインタヴューを行い、各ディスプレイを置くにいたった経緯やそれを置く教育的な意図についての解説を記録した。 主要な結果としては、次の点が明らかになった。 1)ディスプレイを内容に基づいて分類した結果、次のようなカテゴリーが見いだされた:目標、通信、広報、作品、スケジュール、係の仕事、給食、学習、チェック、個人のPR、歌、マナー・ルール、安全・管理、世取り・自発。 2)ディスプレーの空間配置に関して、一定の構造が見いだされること:前面には教師からの目標・管理的な内容のもの、側面は学級の雰囲気づくりに寄与するもの、背面は生徒の作品など。教室が前後の教師対生徒の軸と、左右の生徒間の軸に二分されている。また、上下についても、重要な目標が上方に、生徒の作品は横に並列に置かれるといった価値づけに関わる構造化を示す。 3)メッセージの方向に関して、多くは教師→生徒方向であるが、発信の送り手と受けてに関して、学級、班、男児・女児、個人といった細分化がなされている。 全般的な特質としてディスプレイ内容と表示の配置について学級間、学校間に著しい画一化の傾向が見いだされた。以上のようなディスプレイの内容分析、ディスプレイの空間構造の分析に基づいて、現代の日本の教室文化・学校文化の特質についての考察が行われた。また、全クラスのディスプレイの目録、映像情報についてデータ・ベースが作成された。
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