研究概要 |
従来社会的促進に関する研究において、他者の存在は容易かあるいは単純なdominantな課題に関してはパフォーマンスを上昇せしめ、逆に学習が不十分で、当人にとって難しい、複雑な反応に関してはパフォーマンスを低下させることが明らかにされてきた。しかしアメリカ大リ-グのワールドシリーズのデータを分析したBaumeisterら(1984)の研究結果はこの従来の知見と反するものであった。即ち優勝がかかった第7試合では第1、2試合に比べ、優勝を期待するホームの観客の前でエラーの数が多くなり、また勝率も低下することが示された。このことはdominantな反応に対しても過剰な覚醒水準の上昇はパフォーマンスを低下させる(home choke)ものと解釈される。本研究では日本のプロ野球でもhome chokeなる現象が存在するか否かについて検討した。そこで本研究では1951年から1997年までの日本シリーズのデータを分析対象とした。ただし、一方のチームが4戦全勝したケース(1957、59、60、90の各年)は分析対象から削除した。引き分け試合が含まれるケース(1975、86年)とホーム球場が同一のケース(1981年)も分析対象とはしなかった。データは1951年から1996年までの朝日新聞から収集した。一方大リ-グのデータはBaumeister&Steinhilber(1984)とSchlenker,Phillips,Boniecki,&Schlenker(1995)の論文中のデータを採用した。分析の結果この結果、レギュラーシ-ズンとシリーズを通してホームアドバンテージの効果は日本よりもアメリカの方が大であることが明らかになった。シリーズの第1戦から第7戦までの試合で日本のホームチームの勝率が高いのは第5戦のみである。このことは統計的有意差は見いだされなかったものの日本の場合はシリーズの試合全体がhome chokeの傾向があることを印象づける。勝利を強く期待する観衆を前にした試合ではアメリカよりも日本のチームの方が相対的に弱い傾向が伺える。 次にエラーの発生率に関しても分析を行った。優勝が決定するような試合でhome chokeが発生するならばホームチームのエラー数は増大することが考えられる。分析の結果、第1、2戦と第7戦の間に差がある傾向が伺えた。
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