(1)平成9年度はこれまで実施してきた研究手続きで収集されたデータの分析を進めた年度である。分析の主たる観点は、集団面接で得られた資料から、傷つき体験の克服の程度を測定することと、ロール・プレイの資料から共感能力の程度を測定しその対応関係を明らかにすることである。まず傷つき体験に関しては、次の4点から評定した。すなわち傷つき体験の強度、その体験があってから現在までの時間的距離、中性化の程度、そして体験に対する関わり方である。録音テープを聴取し平成7年度、8年度の各被検者について評定した。共感能力の評定はC.R.ロジャースらが開発したプロセス・スケールを用いて評定した。なおこの評定については、研究代表者が自ら評定するとともに、評定値の妥当性を確認するために、熟練した心理臨床家にも評定を依頼した。 (2)分析の詳細はなお進行中であるが、現在のところ以下の諸点が明らかになってきている。(1)二人の評定者の数値にはかなり高い一致が見られること。(2)傷つき体験の克服程度を示す指標としては体験そのものの強度や、時間的経過の側面よりも、体験そのものにどのように関わっているかが重要と思われること。(3)共感能力の評定に関して、プロセス・スケールの最下位の段階である第1段階の者がかなりみられ、スケールが低い段階でかなり目が粗いと考えられること。(4)共感能力と傷つき体験の克服過程との関連では、体験を肯定的に受け止めている者において共感能力が高く、体験が未だ生々しく感情を揺らすものであったり、反動形成的な頑張りの場合には共感能力は低い。 (3)以上の結果はボランティア・カウンセラ-の養成に当たって被訓練者の選別や訓練内容に関して多くの示唆を与えるものと考えられる。
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