本研究は、保育園での研究成果をもとに、小学校に焦点を絞って異文化児を巡る社会的ネットワークと社会的認識発達の研究を行った。1、異文化児。および日本児、家族、先生への質問紙調査を行った:質問紙は、社会文化的認識として、文化的接触に対する意見のほか、子どもの教育や発達に関わる信念や期待、実際の子どもの行動や仲間関係の記述、評価などを問うものであった。結果は、質問紙の回答の背後にこそ最も重大な認識や感情が潜んでいることを伺わせるものであったため、少数のケースについて面接インタビューをインフォーマルおよびフォーマルに行った。その結果、子どもの加齢につれて、家庭内で生じる問題が変化をきたしていることがわかった。その問題は(1)帰国問題(母国がどこでも、幼児期を過ぎると家族の将来的展望が、本国の家族との関係も含め、複雑化するため帰国に関する重大な意志決定を迫られる。その結果、帰国、別離、在日様々な決定が行われる。それに伴って子どもへの配慮も変わって来るため子どもの心理的負担が社会的ネットワーク上の様々な部分で噴出する)(2)仲間関係の問題(家族での問題とは別に、子どもの成長に連れ複雑な仲間関係意識が日本児、異文化児に共に生ずる。仲間関係のダイナミックスの中でいじめや教室での孤立につながりかねない関係が生ずる)2、月1回の定期観察を行った:子ども達の相互作用行動の分析のためのデータを定期的に得る。対象は、異文化児の在籍クラスの日本児、および日本語補習クラスに在籍する異文化児同士と来訪する日本児たちおよび教師であった。相互作用行動の記録と分析によって、暗黙のメッセージの分析(画像分析)を行った。結果は、異文化児の日本語教室内の行動と、それ以外の場面での行動に明らかに変化があるということであった。変化は日本語教室における屈折した本音(甘え)の表出と、通常クラスにおける目立たない行為(たてまえ)である。この2面性は、異文化児野社会的認識を明確にするための言語表現ではなかな捉えがたいが、上記2種のデータ(質問紙調査、行動観察)の相互関係の分析によって明確にできたといえよう。今後は異文化児の親をはじめとする地域の異文化成人集団と日本語教師、ボランティア集団などに社会的ネットワークの範囲を広げ、その中での異文化児の位置づけから、彼らの文化的認識と自己アイディンティティとの関係を明確にできるような計画を検討中である。
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