平成7年より3年間にわたり、JICA(国際協力事業団A)を通じて日本へ留学してきた、ラテンアメリカ諸国からの国費(日本)留学生に対して、MMPI(心理テスト)のスペイン語版とボルトガル語版による調査、および、その後の面接調査を実施した。結果として、48名(男性16名、女性32名)の広範な資料が得られた。 調査で明らかになったことは、ラテンアメリカからの国費留学生は、全体として、日本での1-2年間の研修生活によく適応しているということである。日本の大学生のMMPI標準値に非常に近い値を示したことは、ひとつの驚きでもあった。その理由として、彼らが経済面で何ら心配する必要のない国費留学生であること、また、大学生や大学院生ということで、ラテンアメリカでは高い社会的ステイタスを持つ人たちであること、この2点がとくに関係していると考えられる。 しかしながら、現時点で適応しているにしても、面接を通じて、彼らが現地の母国と日本の間で揺れ動く心理を潜在的に持ち、一種のアイデンティティの問題を抱えていることが明らかになった。すなわち、ラテンアメリカでもなく、日本でもない、という悩みを訴える人が少なくない。現地では日本人と呼ばれ、日本では現地の人とみなされるという状況において、彼らは少なからず戸惑っているようである。 このアイデンティティの葛藤は、日系人に共通してみられるもので、将来的に、問題として表面化したり、精神科的症状として発展してくることも十分考えられる。今後の研究の方向として、彼らのパーソナリティやアイデンティティにとくに焦点をあて、調査、検討していくことが重要であろう。これは、移民を送り出した日本、あるいは、私たち日本人の、ひとつの義務でもあると思われる。
|