本研究の目的は、「identity defusion」から「identityの統合」へという、Eriksonに代表されるような自我発達の過程に対し、批判的再検討を行い、自我発達にはその後、再び、「identityの発展的拡散」段階があり、それは、通文化的に認められるのではないかという仮説を検討するものである。「identityの統合」までの段階については、従来発達的検討が一貫してなされてきたが、その後のことについては、Markus&Kunda等に代表される、自己意識の状況即応的変容という、別のframeworkで扱われてきているにすぎない。本研究では、「状況即応的な自己意識の変容は、自我全体を揺るがすものではなく、自己意識が構造化されているが故に、無秩序な変容を起こすのではなく、当該の事態に即した自己意識のある部分が活性化され、それは常に、全体の構造との関連を持ちながら進行していく」というMarkusらの見解が、まさに、「identityの統合」以後の「identityの発展的拡散」に充当するという観点から、「identityの統合」以後も含めた、一貫的な自我発達研究を志向するものである。 状況即応的変化を実証するために、対人行動状況において、実験条件の相違により、自己認知に変容が生じるか否かを検討する。作業仮説としては、この変容は、幼少期には法則性が認められない、青年期では実験条件による変容が最も出現しにくく、青年期以降では、状況に即応したかたちで自己認知の変容が生じると思われる。以上の仮説を検討すべく、本年度は先ず、測定尺度の作成とその信頼性、妥当性の検討を第一義に行った。測定尺度作成に当たっては、Linville(1985)のSelf-Complexityという概念を操作的に検討し、尺度を構成した。先ず、Linvilleの翻訳を行い、次いで、主として大学生を被験者として、尺度構成のための予備調査を行った。現在、SPSSによって信頼性、妥当性を検討中である。
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