研究計画にそくし、本年度は次の五つの相互に関連する軸のもとに研究を遂行した。 1.〈人間〉の生成にかかわる理論的分析。これは〈おとこ〉〈おんな〉〈子ども〉の自明的種別性そのものを可能とする種類の、根源的自明性を検討するための基礎研究である。ここでは古典的な歴史社会学的社会理論をたどることをつうじて、共同体解体とこれを表裏一体をなす近代国家の形成が、(抽象的・観念的な「人間論」をこえた)社会学的な〈人間〉研究においてきわめて重要であることが明らかになった。 2.〈おとこ〉の析出にかかわる研究。ここでは近代的労働組織の就業者(労働者)としての〈人間〉の生成にかんして、日本を対象に、i)技能の近代性、ii)間接的労務管理体制から直接的なそれへの移行とこれをもたらす労働組織の変容、iii)徒弟制を排除するための技能養成の「学校化」の重要性が明らかになり、〈人間=労働者=おとこ〉の生成をともなうモダニティ展開の本質が、技能の内容ではなく技能支出の形式にあることを見いだした。 3.〈おんな〉の析出にかかわる研究。日本を対象に、イエとしての家族が、共同体解体をめざす国家によってうちだされた一つの近代的観念である側面をあとづけ、現在は共同体から家族への準拠集団の移行というモダニティ展開のうちに〈人間=良妻賢母=おんな〉の生成を検討している。 4.〈子ども〉の析出にかかわる研究。ここでは主として英仏を対象に、共同体解体と国家形成というモダニティ展開のなかから生まれてきたワークハウス・文法学校(人文学部)・貴族的儀礼(宮廷)という3つの社会機関との対応で、近代社会の各社会層における〈人間=教えられる年少者=子ども〉の生成を明らかにした。 5.とくに実証的に、日本の国家形成を共同体解体をめざす地域支配(地方制度)の側面からとらえ、数量的・規模的側面から把握された行政単位の安定的確立と〈おとこ〉〈おんな〉〈子ども〉の生成との関連の検討を進めている。
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