研究計画にそくし、本年度は昨年度の研究の延長線上で、次の三つの相互に関連する研究を遂行した。 1.〈人間〉の生成にかかわる社会理論的分析。これは〈おとこ〉〈おんな〉〈子ども〉という近代的カテゴリーが成立するための前提条件である「モダニティとしての〈人間〉」の検討である。16世紀以降の西洋において、自然法ないしは自然状態の理論なかで所有的個人(マクファーソン)として成立した〈人間〉に着目し、この〈人間〉のモダニティを、ポッブズ、ロック、ルソーの社会思想・社会理論においてたどり、この思想史的〈人間〉をヘーゲルの共同体論およびマルクスの本源的・原始的蓄積論との関連で検討するとともに、モダニティをめぐるデュルケームおよびエリアスの古典的社会理論の分脈に位置づけた。この検討により、共同体解体と平行して私たちが「人間的」というさいの「厚み」ないしは「奥行き」をもった〈人間〉の誕生のメカニズムが、理論的に明らかになった。 2.監禁施設の成立とその後の経緯にかかわる歴史的検討。教育組織(学校)と労働組織(工場やオフィス)がいまだ未分化であった17世紀ヨーロッパ的状態を、フ-コ-の『狂気の歴史』に依拠して〈監禁施設〉のタ-ムで一括し、感化院(ハウス・オブ・コレクション)、作業場(ワークハウス)、施療院(オビタル)などの歴史を検討した。その結果、この種の全制的施設(ゴッフマン)が〈人間〉の「厚み」ないしは「奥行き」をバーチャルなものとして生成してゆくメカニズム、ならびに現代的な〈情報化〉の社会学的人間論における位置が明らかになった。 3.国家による支配と〈人間〉の〈子ども〉〈おんな〉〈おとこ〉への分節化にかかわる究明。近代国家としての明治政府の法的・行政的諸政策と、人間の分節化との対応関係を検討した。
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