サッセンやフリードマンらによって提示された世界都市仮説は、グローバル化の影響下における都市の階層分極化の傾向を指摘した。本研究は、職業階層や所得配分における分極化仮説が1980年代以降の東京にも妥当するのかどうかを、国勢調査や家計調査などのマクロデータを利用することによって検証することを目的としている。主な分析の結果は次の通りである。 1.対象とした時期は、大きく低成長期(1975-1985)、バブル経済期(1985-1991)ポストバブル期(1991-)の3期に分けられる。 2.職業階層面では、専門職と労務職層の増加、生産工程職の減少が一貫してみられる。これらの変化は、総じて、専門職化ではなく産業構造の転換によって発生した。金融保険業におけるホワイトカラー職層は、バブル期にかけて急増したが、ポストバブル期には減少している。 3.所得配分は、バブル期にかけて大きく地域間・地域内の不平等が拡大したが、ポスト・バブル期にはそれが逆転した。こうした変化は、世界都市化路線に端を発する地価高騰によって引き起こされた。 結論的には、世界都市仮説に基づく職業階層変動や所得階層分極化の仮説は、修正なしには東京には当てはまらない。第一に、東京はグローバル経済に巻き込まれるにつれて、一方的な世界都市形成ではなく、都市機能においても階層形成においてもより不安定な変動を経験するようになった。第二に、階層変動においては、脱工業化効果、グローバル化効果といった要因と並んで、バブル効果、ポストバブル効果という独立した要因が、相互に関連して存在している。
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