わが国の痴呆症へのとりくみは、1980年代から始まり、当初は医療的サイドからのとりくみが中心だったが、90年代に入って介護面からのとりくみが平行して行われるようになった。本研究では介護面において最も困難な問題とされる、痴呆性老人の「問題行動」に焦点を当てた。しばしば、この問題行動が痴呆症ゆえと捉えられがちだが、その要因は痴呆症老人の生活環境や介護者の関わり方が痴呆症老人を困惑させることによってもたらされることにあることを明らかにしようとした。 研究方法は三つの個別事例の検討をおこなうこととした。ひとつは、痴呆症へのとりくみが十分でない時期に自宅で最後まで介護をした事例をとおして「問題行動」の発現と対応の事例、二つは精神科デイケアによる集団精神療法と家族へのアプローチの事例。三つは地域のなじみの人のボランティアで託老所をつくり痴呆老人の日中のやすらぎの場をつくっている事例である。 これらの事例を検討を通じて、痴呆老人自身が自分の障害を自己確知しており、しかもそのことで深い苦悩と不安に陥っており、それが「問題行動」の直接の要因となっているらしいことが明らかとなった。そして痴呆老人と関わる際には、痴呆老人の障害を補うような環境を整備し、五官と感情に働きかけ共感に基礎づけられた対話的コミュニケーションをすれば、単にADLの改善だけでなくQOLの向上も可能となり、本人の自己実現をはかることも出来、普通の老人とおなじように天寿を全うできる事例もあることが実証された。 なお、本研究の研究成果は近く出版の予定である。
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