「近現代の産の意識」という研究テーマのもと、特に第二次世界大戦後の「産」の意識形成過程を、家族計画、新生活運動、人口政策と資本蓄積関連の諸論文・資料より再構成した。その結果、以下のことが明白となった。(1)1970年頃までに、「近代的家族」を志向する態度形成が完成した。(2)この「近代的家族」は、社会の存続にとっては経済的・生殖的生産単位として成立した。(3)この「近代的家族」は、個々人にとっては「一生の幸せ」の計算単位として成立した。(4)この「近代的家族」は国家にとっては人口政策として成立し、高度経済成長を可能にした。(5)これらの過程は、明示的政策としてでなく企業や半官半民団体という中間集団による、主婦層の主体的動員というかたちで成功した。(6)この過程を一貫する鍵概念は、合理性(計算可能性)である。(7)結果として、少子化の定着と家庭内での固定的な性別役割分業、日本的な女子雇用制度が生じた。これらの研究成果は、論文「少産化と家族政策」にまとめられた(11.研究発表「著書」の欄参照)。 今後の課題は、第一にこのような過程の地域差、階層差の問題である。第二に、この過程が大衆雑誌にみられる意識とどのように関わりがあるかという点である。第三に、合理化に特に着目しつつ戦前の近代化との関わりを検討することによって、戦前の産の意識を捉え直すこと。第四に、他国の近代化との共通点と相違点を綿密に検討する作業である。
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