「近現代の産の意識」という研究テーマのもとで、今年度は「産の意識」と深く関わる二つの課題を当初設定した。特に、1945年から1970年という人口学的、また家族社会学的に見て「産」に関わる行動パターンの激変の生じた期間に絞り、一つは、被雇用者家庭における合理的な「産の意識」形成過程を追究すること、二つめは、被雇用者過程ではない農村部での意識変化を探求することである。 第一の課題については、具体的辞令として日本国有鉄道などの大組織における家族計画及び新生活運動の研究を着手した。これは、(1)大組織における家族計画関連資料、特に(2)日本国有鉄道に残存する資料、(3)日本国有鉄道の家族計画の当時の関係者へのインタビューが対象である。しかし、日本国有鉄道に関しては、非常に興味深い対象ながらその後の解体と民営化のために多くの資料が失われ、研究は来年度にも継続することが必要となった。第二の課題については、雑誌『家の光』を収集・分析することから着手する予定であったが、『家の光』の目次により1949年から1959年までの関連記事だけで89件に及んだ(この数字は「読者相談室」「身の上相談室」「育児・衛生相談」「農協婦人部だより」の内容を含まない)。そのため、研究は来年度に残された課題となった。 ところで、より深い解明のために母性というテーマを包括的に据える作業を並行して行った。これは母性を規範と考えその逸脱形態から社会を考察する研究で、上述の期間の(1)新聞記事と(2)雑誌記事、(3)さらに戦前に遡って逸脱の犯罪化である「堕胎罪」の判例、学説、犯罪統計の分析を含む。また、研究全体を相補するものとして該当期間の女性たちの「生きられた世界」としての「産」の体験のインタビューを始めた。この多面的なアプローチにより、戦後の「産の意識」の様態と激変をより総体的に据えたい。
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