平成7年度は、主として熊本市と福岡市および北九州市をフィールドとして、中国帰国者への地域社会の受容と排除の状況を比較研究した。/そして以下のような暫定的な知見に達した。すなわち、中国帰国者の生活実態を住宅・就職・進学・結婚などの諸点からみると、彼らは形式的・表面的には地域社会に受容されているように見えるが、その実態は排除されている。特に社会関係、なかんずく親族関係で受容される場合が少なく、進学・就職・結婚においても半ば排除されている。たとえば進学に関していえば、福岡県は帰国者に関する特別進学制度を設けているが、福岡市の場合高校進学率がほぼ100%なのに対し、大学・短大への進学率は過去4年間の平均は約17%と推計され、一般の約半分にも達していない。いわんや就業状況においては、単純作業や肉体労働が圧倒的で、帰国者世帯の内約68%が就業しているのに、生活保護の受給率は帰国者世帯の約45%と、就業状況の恵まれなさを物語っている。/さて、中国帰国者は中国に残留していたいわゆる孤児や婦人、その配偶者、そしてその子供・孫(いわゆる二世三世)からなるが、帰国の傾向は前者から後者へと移ってきている。それにともない、帰国者への行政の対応は、帰国旅費や年金など残留孤児や残留婦人たちへの待遇の漸進的な改善と、二世三世への厳しい対応に分かれてきている。たとえば生活保護の認可に関して、ケースワーカーの態度は、従来帰国者は戦争の犠牲者という特別な配慮があったが、二世三世へは特別な配慮はなくなる傾向にある。/最後に、上記の三市の比較から言えることは、帰国者への行政の対応はほぼ一律であったものの、両者を媒介しているボランティア団体の在り方と機能は大きく異なっていた。とりわけ北九州市の場合、ある日本語教室が日本語教育だけでなく帰国者の生活相談まで果たしその適応に大きな役割を果たしており、地域比較の可能性を強く示唆した。
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