1 戦後日本の家族問題は、「個人主義指向性」、「平等主義指向性」、これらの随伴結果としての「価値の多様化」という文脈のなかで生起している。ここでいう家族問題とは、家族システムの機能不全を意味する。これらの文脈は、「富裕化」を必要条件として成立している。約言すれば、戦後日本の家族問題は、「私事化の肥大化と社会規範の希薄化」という文脈の中で出現していると解釈される。 2 子どもをめぐる家族問題は、当初、貧困を背景にするものが多かった。例えば、養護施設や保育所へ措置された子どもたちの大半は、その家族背景として貧困の問題を抱えていた。しかし、富裕化を背景に、「私事化の肥大化と社会規範の希薄化」が進行し、例えば、不登校の子どもたちのなかには、「自分らしく生きたい症候群」とも呼べる「私事化の肥大化」によって「社会規範の希薄化」が進行している。制度としての学校をめぐる規範の内面化は、新世代と子ども世代で異なり、「規範への適応」を求める親と「自分らしく生きる」ことを希望する子どもが対立することになる。この場合、親が子どもを支援するか、それとも学校を支援するかによって、子どもの葛藤の大きさが規定されてくる。 3 またいじめは、学校や家庭における子どもたちのストレスが、異質なもの(管理主義は同質性をもとめる)、弱いもの(競争原理)を排除する形式である。 4 さらに子ども虐待も、私事化を優先させてきた子どもたちが親になり、統制困難な育児や子育てのなかで母性神話を演じようとしてストレスを溜め込み、それらが怒りの感情に転化したものと解釈される。すなわち、「私事化の肥大化」のなかで母性神話という規範との葛藤が虐待現象を引き起こしている。
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