本研究では、「富裕化社会における子どもをめぐる家族問題」、すなわち虐待、不登校、インセストに焦点があてられた。考察のポイントは、以下の3点である。すなわち、 1)「曖昧さに耐える力」の評価をめぐって:私事の自由の拡大傾向は、感受性を鋭敏にする一方で、曖昧さに耐える力を希薄化させてきてる。人間関係が希薄化することの最大の問題は、他者に対する想像力を貧困化させることである。加えて、他者に対する想像力は、感受性ばかりではなく、「曖昧さに耐える力」も重要な役割を果たしているということである。個人のスタンスと他者のスタンスを自己の中に想像できるということが、他者に対する想像力を豊かにしていく前提である。「豊かで、かつ健康な社会」を構築するためには、「感受性」と「曖昧さに耐える力」の両方への指向性、これらに根拠づけられた他者に対する想像力の復権が重要である。 2)「母性」神話・「学歴」神話等からの自由:「母性」神話や「学歴」神話による子ども虐待や逸脱行動は、その背後に私事の自由が拡大傾向にあることと表裏の関係にある。「母性」神話は自己内葛藤として、「学歴」神話は親子葛藤としてそれぞれ顕在化する。私事の自由が拡大傾向にあるなかでは、それぞれのもつ神話性からも自由になることが保証されなければならない。そのことによって、はじめて家族問題の一部は解消されていくのではないか。 3)新しい価値の創造:新しい価値の創造には、「健康な家族」「健康な学校」「健康な地域社会」「健康な企業」「健康な国家」といったモデルを構築することが前提となる。またそれは、「明日のために努力する」という生き方より、「いま、ここ」に全力投球する生き方が重視されることを意味する。
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