本研究の長期的課題は、口承史学の手法をふまえ、当事者(利用者)としての子どもの視点から、児童福祉処遇の歴史を再構築することである。 今回はその第一段階として、口承史の手法が社会福祉実践に関する利用者側からの評価、とくに(evaluation)としての有効性をもつか否かの吟味を行うとともに、我が国で著名な某養護施設に、大正〜昭和戦前期に入所していた福祉施設利用者の生活記録の収集ならびに、当事者のライフヒストリーの<聞き取り>調査による資料収集と分析を行った。 今回のライフヒストリーの聞き取りとその再構成の過程においては、福祉施設体験がそれぞれの個人の人生に及ぼす影響として、1)かなり抽象的ともいえる福祉実践者(メインとなる人物)の思想的(宗教)側面影響力の深さ・・・アイデンティティへの影響、2)情緒的体験の質の個人差の大きさ、3)ライフスタイル形成への影響、4)男女あるいは生活経験の社会的広がりによる被差別体験の相違、その他等多くの要素が考察された。 さらに<全体性>を意識すると、開墾・小作・公衆衛生の状況など、まさに戦前期における日本の農村社会状況の反映もまた顕著であった。語られた人生は、まさに生き抜いた人生としての重みを有していたといえよう。
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