平成4年と平成7年に実施した2回のアンケート調査に回答のあった人から対象を選定し、職業経歴と地域特性をより詳しくとらえることを目的として、面接調査を行った。本人および配偶者のどちらかの職業が、炭鉱の坑内夫や職員、あるいは教員、公務員であった人を抽出した結果、三笠市で93人、岩見沢で171人が対象者となった。面接するにあたって、調査の依頼状を送付し、返信用の葉書を同封して対象者の都合や住所、電話などの確認を行った。三笠地区には、2月半ばから面接調査に入り、3月半ばまでに9割以上の対象者と連絡がとれ、40人近くの協力者を得ることができた。岩見沢地区に関しては、現在調査中であるが、対象者も三笠の2倍近くあるため、4月以降調査を継続する意向である。 三笠市での聞き取りから、職歴形成と炭鉱のまちへの定着のプロセス、職業生活と余暇生活、閉山後および退社後の生活について、詳しい情報を得ることができた。退職後の生活における職業経歴の影響は、老後の収入源としての年金や住宅に及ぶだけでなく、社会関係や社会活動にも及ぶことが、職員と坑員のライフスタイルの違いからうかがわれる。また、炭鉱で働いていた男性の妻の就労のデータから、当時の女性の職歴形成にもいくつかのパターンがあることがわかった。老年期のライフスタイルが、地域をよりどころとして編成されるとすれば、加齢による身体的変化と死がもたらす社会関係の交代と喪失ばかりでなく、閉山という社会的変化による社会関係解体の影響は大きいといえよう。そのなかで、時間をかけて築かれた親密な関係をなお維持し、さらに炭鉱などかつて所属した共同社会に共通する記憶や共通の楽しみを軸として新たな関係を創出する人々がみいだされる。それ以外の人々にとっても、その地における生活の記憶と住み慣れた土地での生活の利便が、地域への愛着や定住の意志の根底にあることがうかがわれた。
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