本研究は、都市における中高年男性のネットワーキングを実証的にとらえようとしたものである.事例研究の対象は、男性の料理と食文化のサークルである「男子厨房に入ろう会」である.本研究の焦点は三つある.一つは、この「男子厨房に入ろう会」の誕生とそのネットワーキングの展開の社会的背景を、日本の戦後の高度経済成長とそれと密接に関連した食生活の変化という歴史的視野からとらえること.二つは、「男の料理」本の分析を通して「男の料理」言説の創出と対抗言説との相克を分析すること.三つは、「男子厨房に入ろう会」の結成とその後のネットワーキングを明らかにすること. 日本人の食生活のスタイルは、この時期劇的な変化を遂げた.多くの人々は食品産業や外食産業にますます依存するようになり、他方その中で手作りや健康な食事に志向する人々もいた. これまで、「男子厨房に入るべからず」は、言説の一つであった.この言説は、家庭内での料理は女性の仕事であるということだけではなく、食事や料理に興味を示すことすら男性らしくないとみなされることを意味した.1970年半ばになって、東京で敢えて「男子厨房に入ろう」という対抗言説を提示する男性たちが現れた.彼らは、趣味として男性の料理のクラブを結成した.その活動はやがて仙台市、札幌市、盛岡市、秋田市、一関市、松本市などの地方に伝播し、職業や地域の社会的区分を越えて、中高年男性のネットワーキングを展開させた. このネットワーキングは、日本社会のジェンダー分化を反映している.典型事例として仙台男子厨房に入ろう会を取り上げた.15年間の活動で、構成員の高齢化が進んでおり、高齢化社会に向かう中での中高年男性の生活の自立への対応の一つとして注目できる.こうしたネットワーキングは、未だ家庭内で料理をする男性が少ない中では、既存の状況を突破するために重要な存在である.
|