平成8年度は、市民運動が地域でつくりだす「公共性空間」を具体的に把握するために、まちづくり運動に研究の焦点を合わせた。以下、調査と得られた知見とを対応させながら説明する。先ず、阪神・淡路大震災を経験した神戸市長田区真野地区と東灘区の南半分をエリアとしている「東灘・地域助け合いネットワーク」の調査からは、復興過程におけるまちづくりの合意形成では専門家の役割が大きいこと、地域のリーダー層の交代が見られること、福祉コミュニティづくりのために創意をもった地域ニーズの掘り起こしのシステムが必要なことがわかった。第2に「奈良まちづくりセンター」の調査では、まちづくりはシンクタンク機能を担う専門家集団が必要なこと、行政の対応は市よりも県レベルが敏感なことがわかった。また前理事長の木原氏からは、英国グラウンドワーク運動調査に関する貴重なアドバイスをいただいた。第3に金沢市の「身近な環境と子どもたちを考える会」のワークショップからは、金沢の歴史的街並み保存運動の中に親子参加のまちづくりという新しい動きがあり、それを多数の学生ボランティアが支えているということがわかった。第4に大阪の「地域開発計画研究所」調査からは、地域主義の系譜から1990年頃から市民公益活動が提唱され、大震災を契機に人々のネットワークとして広がったことがわかった。これらの結果を踏まえて、市民・行政・企業のパートナーシップに基づくまちづくりを実行している英国のマクレスフィールドなど3つのグラウンドワーク・トラストを訪れ、日本におけるグラウンドワーク型まちづくりの可能性についてレビューを受けた。そして鍵は、対等なパートナーシップをどうつくるかにあることがわかった。今後は、日本における諸例を英国の例と比較しながら、「公共性空間」の形成を分析する仕事が残っている。
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