本年度はまず、国内の主として三大都市圏における都市農業の実態に関する資料収集と現地調査を実施し、生産緑地法改正(平成4年)に対する各地域の農家、周辺住民、自治体の対応と、その結果、都市農地と農業にどのような変化が起こっているかについて、比較社会学的な検討を試みた。(1)農業の内容を比較すると、首都圏は野菜単一経営が主体であるが、中京圏および近畿圏では稲作の比率が高い。しかし、いずれにおいても、都心部に近づくほど野菜、花卉などの施設化による集約栽培が主体になっている。(2)農業の担い手は、都心部ほど後継者が育っている傾向がいずれにも認められたが、とくに東京の場合、新規学卒就農者が多く、経営者の平均年齢も若く、農業が魅力ある仕事として再評価されつつある。(3)バブルの時代には、「地価が上がるのを待っているだけだろう」と周辺住民から(時には親類縁者からさえ)非難を浴びていた農家も、最近は地域住民の農業に対する理解が深まりつつあることを感じ始めている。(4)自治体も、都市農業の振興と市民参加型農業の育成を中心に、新たな施策を展開しつつある。(5)全体として、生産緑地法の改正は、都市農地の分散・分断に拍車をかけ、生産緑地、宅地化農地(宅地並課税農地)および宅地のモザイク化を促進し、その分だけ都市農業の淘汰を進めたといえるが、そのなかで生き残ってきた現在の都市農業は、都市的地域社会の環境条件により適合した独自の農業としての地位を築き、住民に対しても自治体に対しても、都市のあり方に根本的な発想転換を迫るような新たな展開を見せ始めていることが、これまでの調査研究から明らかになった。また、文献による欧米を中心とする諸外国との比較では、日本の場合土地課税制度のみによる都市農業政策が先行したために、農業・農地の都市計画上の位置付けが欧米に比べて著しく立ち後れていることが明らかになった。
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