平成9年度は本研究の最終的なとりまとめの年に当たるため、三大都市圏の都市農業の比較分析をより精緻化すると同時に、国内比較の範囲を沖縄県那覇市に加えて、地方中核都市としての岡山市と福岡市にまで拡大した。また、アジアではインドネシアのバンドン都市圏、ヨーロッパではドイツの諸都市における都市農業を中心に、国際比較を試みた。(ただし、経費等の都合上ドイツについては文献資料研究にとどまり、現地調査は実施できなかった。)その結果、概略以下のような研究成果が得られた。ーーー(1)三大都市圏の都市農業の比較調査を深めることにより、名古屋と京阪神には区部にも市街化調整区域が存在しているのに対して、東京の区部にはそれが皆無であり、その違いが都市農業の実態にも反映していることが明らかになった。特に、東京区部の農業が国の農業政策から完全に切り離されているために、都と区が積極的に独自の都市農業振興政策を打ち出しているのに対して、名古屋と京阪神では市や区が独自の都市農業政策を実施しにくい環境にあることがわかった。(2)東京区部は農地が全面的に市街化区域に組み込まれているという点では、むしろ那覇市と共通している。しかし、那覇市では生産緑地制度の導入が皆無なため、農地は急速に周辺に排除され、通勤農業化が進んでいる。那覇市は、都市農地の保全施策が全くない場合の都市農業のあり方を示唆する典型事例である。(3)調整区域や農振地区を広く抱え、生産緑地制度の適用が進んでいない地方中核都市では、岡山市の牧山クラインガルテンのように、市域内の過疎地域における過疎・高齢化対策事業として市民農園が活用され、地元農家に対する管理業務委託により、雇用を創出していることがわかった。(4)国際比較も含めて、都市農業が日本国内はもとより世界的に、都市と農村との関係を21世紀に向けて根本的に刷新する重要な契機となっていることが解明できた。
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