本研究では、「新しい社会運動論」の観点を基調としつつ長良川河口堰反対運動の歴史的・理論的分析を行なった。長良川河口堰反対運動の歴史は1960年代にまで遡り、1960年代から1980年代末までの産業間格差に基づく伝統的な零細漁業と近代的産業との対立を主軸とする第一次反対運動と、1988年以降のマス・メディアによって広く知られるようになった自然環境保護運動としての第二次反対運動とに区分できる。 第一次反対運動は「公害」の時代の社会運動を、また第二次反対運動は「環境(問題)」の時代の社会運動を、それぞれに典型的に示していると考えられる。これら二つの時期の反対運動の歴史的な比較分析を通して、「公害から環境(問題)へ」という社会問題の捉え方の変化がもつ意味を探ると同時に、そうした側面から戦後の日本社会における国家と市民あるいは社会運動との関係の変化を分析した。 また、二つの時期の反対運動の歴史的な変化を、〈「聖-俗」のドラマから「遊」のドラマへ〉の変化、あるいは〈モダンの社会運動からポストモダンの社会運動へ〉の変化として捉えてみることを通して、「新しい社会運動論」が想定している運動形態とは異なった運動形態、すなわち高度消費社会に即応した「消費人」によるさらに新しい社会運動の形態の存立可能性について考察した。
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