社会レベルの諸条件の変動と個々の事業所組織の進化との接点として、「産業」を位置づけ、産業のレベルでの統計的変数と事業所組織のレベルでの変数との関連を分析した。 具体的には産業のレベルでの変数として業種ごとの「事業所数」を、事業所組織レベルの変数として「従業員数」を考えた。ただし、従業員数は操作的には、産業レベルの変数である「事業所数」を、同じく産業レベルの変数である「従業者数」で除したかたちで、業種ごとの「1事業所あたり平均従業者数」として算出される。 生態学的モデルでは、産業の盛衰を業種ごとの組織数でとらえる例が多い。ハナンとキャロルによる組織個体群成長の仮説では、当該産業における組織数が多くなるほど同一の経営資源をめぐる競争が激しくなるので、個々の組織の成長のチャンスは抑制され、その結果産業全体の成長にも徐々にブレーキがかかる、とされている。生態学モデルでは生存関数を用いてこの仮説を検証するが、今回は既存の統計数値から分析できる範囲内で検証を行った。 その結果、日本の昭和26年から61年にいたる35年間においては、ほとんどの産業で事業所数の成長が続いており、飽和状態に入ったために成長に歯止めがかかったと考えられる産業は見受けられなかった。しかし事業所規模についてみると、産業レベルで事業所数が成長するほど事業所規模が縮小する傾向が多くの業種についてみうけられた。このことからは、日本における産業の成長は、多くの場合、産業内での寡占の進行ではなくむしろ、個々の組織の効率化と、その産業に属する小規模な組織の間に経営資源を分散し続けることによって継続可能であったものと推定できる。
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