1.特定の個別的な対象に関して調査に基づいて記述する、いわゆるエスノグラフィーという方法を、実証研究の方法としてだけでなく、社会学における記述の方法という観点から考察した。 (1)フィクションとは異なり、「現実との明示的な対称」が常に求められる。また、ノンフィクションとは異なり、「一般化(普偏性)」が求められる。しかもそれは読者に想像力を喚起する記述でなければならない。対象者にとって切実な「現実」でありながら、それを非経験者にも「経験」できるような記述に移す作業が、経験社会学の方法であり、それは調査の方法だけでなく記述の方法の問題でもある。 (2)それは、フィールド(現場)とその外側との両方に立つ記述である。概念のための概念でなく、「一般化」のための概念を動員する記述である。枠組みの適用ではなく、現場から枠組みを提示する作業である。 (3)場合によっては、対象者との共同作業が求められる。最近の人類学や社会学での記述をめぐる議論のように、テキストが筆者の主観性を逃れられないという論点に配慮すれば、記述を対象者に提示して意見を求めることも考えられる。これは、ライフヒストリー研究の論点の一つでもある。しかし、調査者は単なる取材者ではなく、単なる代弁者でもない。 (4)記述は、結果として、研究者にとって「興味深い」問題が、現場では新しい経験になると共に、対象者にとっても、新しい視点が見えてくることである。 2.公式組織の代表者を対象としたインタビューは、対象者の選定手続きに時間を要している。明確な基準を早急に設定し、平成9年度の早期に実施し、そこからさらに対象を限定して、参考観察を実施したい。
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