日本社会事業史にとって明治期のもつ意味を地域比較や問題比較によって明らかにしようとした本研究はいくつかの成果をあげることができた。 (1)明治期の貧困問題と貧民救済事業のもつ歴史的展開性 明治維新直後数年間の各地での貧民救済施設のほとんどは数年で姿を消し、東京、大阪では府立、財団法人形態で運営が継続され、石川県では小野慈善院としてまったくの個人経営で継続された。他に半個人経営の救済施設もあったが、総合救済施設として存続しえたものはほとんどない。それが明治中期、末期と存続しえたのはなぜで、どのような運営をし、どのような困難があったか。明治中、後期の事業内容をかなり詳細に解明した。しかしそれでも経営困難は著しく、財団法人化という形で実質的には県、市が経営を代行して明治末期を迎えることとなった。ここに1つの展開性を見出すことができる。 (2)明治期貧困問題における戦争の位置 明治期貧困問題をひきおこす要因はいくつかあるが、その1つにいく度かにわたってひきおこされた戦争の位置には大きいものがある。今回の研究では日露戦争が明治末期の貧困問題に占める意味について、福島県と長野県の事例で分析した。とくに戦死者遺家族や傷病を得て労働能力を失って帰郷した者の生活困難は大きい。これらについてもその具体的内容の一端を明らかにすることができた。
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