本研究の目的は大きく変化した同和地区の実態を踏まえて、部落問題の解決を実現するための最終的な課題を提起するとともに、わが国において一つの社会問題が解決可能といわれるような実態をつくりだした同和対策事業の教訓を明らかにする点にある。 そのために、ここでは(1)戦後直後より同和地区を拠点として地域福祉活動を展開してきた一社会福祉施設の資料収集と関係者の聞き取り(2)京都市内同和保育所「乳幼児とその家族の生活調査」(3)「障害者(児)とその家族の生活調査」(4)「公務労働者の人権意識調査」(5)「乳幼児とその家族の健康調査」「妊娠とその家族の健康調査」に取り組んだ。 これらの調査により、地域福祉・地域医療をはじめとする住民のいのちと暮らしを守るうえで果してきた積極的な部分、すなわち一般施策に教訓とすべき部分が明らかとなり、また同和対策事業によって新たに形成された克服すべき住民の自治・自立を妨げる事業手法の問題点も明らかとなった。 部落問題の解決に積極的な役割を果している同和対策事業は"安心して子どもを産み育て老いることのできる地域政策"づくりのあり方を我々に教えているが、封建的身分を再確認し、身分をアイデンティティーとして固定化するような同和対策事業はその是正を求められている。
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