本研究は、マス(大衆)型高等教育下における大学院とその成長条件を考察するために、わが国よりも早くマス型高等教育システムに移行した米国との比較や、現行マス型高等教育に適合した大学院の設計が課題になりつつあるヨーロッパ諸国との比較、およびわが国における学問分野別の大学院の現状の相違に着目して、いかなる条件のもとに大学院は成長し、またそのためにはどのような政策手段が有効であるかについて明らかにすることが目的であった。 2年間にわたる研究の結果、わが国では学問分野間の大学院の成長スピードが違うこと、その主な要因として大学院修了後の進路が大学教員意外に広く開かれているかどうかという点が大きいことを明らかにした。すなわち、人文や社会科学の分野では、大学院修了後の職業が依然として大学教員に偏り、また大学院学生にも数員志望者が多い反面、理学や工学の分野では、大学教員以外の就職が急速に増大している。このことが、大学院における入学者の大小に大きく影響している。 また、わが国の大学院には、戦後の制度改革にもかかわらず、実態上は戦前型の古いイメージとそれにもとづく運用がなされているという大きな欠点があり、今後は大学院システムの改善が必要である。その改善方向として、大学院学生に対する経済支援、大学院の研究環境の整備、大学院プログラムの見直しと教育訓練の重視、研究活動の多様化に応じた「研究」や「研究者」の意味の柔軟な拡大、社会に対する説明責任(アカウンタビリティーの明確化などが必要なことを、併せて提言した。
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