本研究は、マス(大衆)型高等教育下における大学院とその成長条件を考察するために、わが国よりも早くマス型高等教育システムに移行した米国との比較や、現行マス型高等教育に適合した大学院の設計が課題になりつつあるヨーロッパ諸国との比較、およびわが国における学問分野別の大学院の現状の相違に着目して、いかなる条件のもとに大学院は成長し、またそのためにはどのような政策手段が有効であるかについて明らかにすることが目的である。 平成7年度の行った問題点の構造化にもとづき、わが国の大学院研究科に対する実態調査データを使用しつつ、学問分野別および大学種別による大学院成長速度の違いに係る要因の分析を行った。その結果、学問分野間の大学院の成長速度が違う主な要因として、大学院修了後の進路が大学教員以外に広く開かれているかどうかという点が大きいことを明らかにした。すなわち、人文や社会科学の分野では、大学院修了後の職業が依然として大学教員に偏り、また大学院学生にも教員志望者が多い反面、理学や工学の分野では、大学教員以外の就職が急速に増大している。また、大学種別による大学院の成長速度にも差異が見られ、米国と同様、研究中心の大学すなわち「研究大学」とそうでない大学とに二極分化の状況があることも分かった。これらの分析結果を受けて、大学院システムの改善の方向として、大学院学生にする経済支援、大学院の研究環境の整備、大学院プログラムの見直しと教育訓練の重視、研究活動の多様化に応じた「研究」や「研究者」の意味の柔軟な拡大、社会に対する説明責任(アカウンタビリティー)の明確化などが必要なことを、併せて提言した。
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