本研究では、援助トータル・システムを教育援助の分析枠組みとして、2国間援助では米国、多国間援助では世界銀行、受取り国としてインドネシアを事例として取り上げ調査研究した。本研究は教育援助を受取り国または供与国といった単一のアクターではなく、複数のアクターによる「複合相互依存状況」のなかで分析して正確に把握しようとするものである。各3者の国内・機関内システムを調べ、それらが教育援助政策・方針構築にどのような影響を与えるのかを分析した。同時に3者の国際関係が教育援助に与える影響を分析し、インドネシアにおける教育援助がどのような過程により実施されているのかを検証した。 世銀では、教育機関建設・配置プロジェクトを事例として取り上げ、このプロジェクトが教育費関数を基に決定されていることから、教育援助政策決定過程と経済分析との関連を分析した。これから世銀の教育援助政策策定は教育セクター自体の要因というよりも開発経済学アプローチによる「一般化」という特質をもつ世銀の援助体制そのものに規定されることを論じた。米国では、対外援助は外交政策の下位政策として位置付けられており、外交政策策定過程が援助政策策定の大きな要因となっている。米国の教育援助も援助政策の一環として政治(外交)的動機が強く働いており、米国と援助受取り国の2国間関係を機軸とした政策環境(policy environment)により規定されている。また、インドネシアではスハルト政権という、いわば「開発独裁政権」が経済開発戦略をとっていることから、教育開発政策も経済政策に従属しており、教育援助要請も供与国・機関との関係により規定されていると論じた。このように教育援助は途上国側の教育セクターの発展を中心に展開されているわけではなく、国内(機関内)システムや国際関係に規定される度合が高いことが明らかにされた。
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