インドにおける基礎的教育の普及は、19世紀半ばから、安定した植民地支配のためにはインド大衆に対する教育が必要であるという統治上の理由から着手されたが、ここでは基礎的教育を義務教育とする構想は見られなかった。これに対し、民族教育運動では義務教育の実現ことが民族的要求であると考えられ、インド人側の教育に関する権限が強まるなかで、20世紀初頭から各州で義務教育法が成立した。 独立後はベイシック・エデュケイションを国民教育制度として義務教育の実現がみざされたが、1960年代には就学義務から保障義務へと重点が移行して就学の強制から奨励へという転換がみられ、さらに70年代後半にはノンフォーマル教育センターによってパートタイムの基礎的教育の普及が図られるようになった。 そしてこのような背景から、現在の基礎的教育の普遍化は、(1)国際協力機関やNGOなどへの権利保障主体の拡大、(2)インセンティヴ高揚のための無償性の拡張、(3)年齢主義から課程主義への転換、(4)社会開発のコアとしての教育開発、(5)教育開発への参加の自由とそれに伴う分権化という、原理に基づいていると考えられる。 [構成]1インドにおける義務教育政策の展開と基礎的教育普遍化の検討/(1)義務教育法制の整備による基礎的教育の普及/(2)就学強制から就学奨励へ/(3)就学の普遍化から教育の普遍化へ//2基礎的教育の普遍化に対する社会的要請--開発と教育という視点から//3基礎的教育普遍化の組織原理 なお、資料として「基礎的教育の保障原理の転換--義務から普遍化へ」(日本教育制度学会第4回大会発表要旨)、「ラジャスタン州における基礎的教育普遍化プロジェクト」、「アジアの教育と開発/すべての人の教育を」(シュレシュ・シュクラ博士の講演要旨)を収録している。
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