平成7年度は、フランスのエコミュージアム(以下EMと略す)の歴史、理念および事例研究を行うことによって次のような知見を得ることができた。 1、EMは、テリトリ-の設定、収集物の性格、活動対象、運営方法において、従来の博物館とは大きく異なるものである。とくに成人教育研究としての視角から注目されるのは、EMの多くは1つの協同体(アソシアシオン)として組織化されており、EMの設立の発案も企画も実際の取り組みもすべてEM協同体が行っているということである。つまり、自律・自治の基礎単位として活動を展開している運動体である。またEMの歴史は、その誕生の契機が政策的な流れのものであったとはいえ、その発展は協同体としての運動のダイナミズムによって促されきた。 2、EMは、それを支える主体形成および住民の地域アイデンテイテイの形成ということが第1義的な課題であり、何よりも重視されるのが徹底したEMの理解や地域の理解そしてEM協同体への加入ないし協力である。それは一見きわめて非合理的な印象を免れないが、実はここにこそ協同体としての運動というEMの本質が見いだされる。したがって、EMのテリトリ-としての地域は、それ自体がすでに設定された空間をアプリオリに前提とするのではなく、EM運動の中で形成されるものである。また、地域住民は地域遺産を共有する人として位置づけられるため、単なる教育対象ではなく、あらゆるEM活動の主体として登場し、従って住民参加が重要な意味をもつ。 3、EMは今日、その定義との関わりから協同体としての活動の意味がその多様性や自律性のあり方をめぐって問われている。そしてそれら今日的課題の克服のためには、EMの住民の研究・教育活動=成人教育としての機能を重視することが求められている。
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