平性八年度は、フランスのエコミュージアム(以下EMと略す)の理念および事例研究および日本のEMエ論議と実践の考察を通して次のような知見を得ることができた。 1、EMの理念は、次のような諸点において伝統的博物館と教育観の転換をもたらすものである。(1)地方の個性を歴史的今日的に価値づけるものである、(2)地方文化や少数文化が一般価値体系から排除されてきたことに対する批判を内包している、(3)収集される資料は、国家遺産・国民遺産である前に地域住民の遺産である、(4)従って遺産は地域住民による管理という意味での住民参加が重要な運営方法となる、(5)従来の博物館においては国民が教育対象として設定されてきたのに対し、EMでは地域住民がその活動に関わることによって自ら学んでいく自己決定学習としての生涯学習が目指されるという点である。 2、フランスのEMの多くは、アソシアシオン博物館として制度的位置を占めており、それは博物館施設と職員の序列化・差別化の博物館制度の中で低い位置に留まっている。だが、アソシアシオン博物館としてのEMの持つ意味は、資料的にも施設的も大きいばかりでなく、次のような諸点において成人教育として重要な意義を持つ。(1)主体的な住民参加の保証、(2)住民の活動要求と地域へのアイデンティティ形成の場、(3)自己決定学習としての住民の学習の場、(4)それらを通して住民の参加意識・ボランティア意識の醸成ともに公共性の創造とそれを担う住民の形成への可能性、(5)社会的経済の構成要素として社会的・集団的ニーズを満たすための生産活動に関わることを通して、住民の主体形成の契機となるという点である。 3、以上のようにEMは、日本において中心的な議論や実践になっているように、単なるまちづくりの手法にとどまるものではなく、理念においても実践においても従来の博物館および教育のあり方を問い直す重要の手がかりとなるものである。
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