平成8年度は7年度に収録した音声サンプルに61名の音声(絵画説明方式による発話、最少音韻対立リスト及び親族呼称リストによる単語、単音節)を追加し、これらの音声サンプルを一般の健聴者に聞き取り評価させた。この結果、以下の知見を得た。 1.単音節発音明瞭度が一定のレベルに満たない場合、発話内容、韻律、言語運用の状況にかかわらず、発話の了解度は低い。この値は先行研究で指摘されている60%よりもさらに低い値であることが推測されるが、今後の分析でいっそう明らかにされるはずである。 2.単音節発音明瞭度と発話了解度の相関は必ずしも高くない。それ故、単音節発音明瞭度があるレベル(上記値)以上の対象者の日常の発話了解度を推測するためには、単音節発音明瞭度検査だけでは不十分である。 3.話題が特定された会話における発話の了解度には、話題に対する発話内容の関連性が大きく影響する。即ち話題に直接的に結びつく内容は、音韻の明瞭度が低くとも了解性は高い。 4.絵画説明方式の発話検査は、発話内容を統制できるという効果があるが、それ故に絵画からは推測しにくい内容の発話は了解性が低くなる可能性がある。さらに比較的言語力の高い被験者は、複雑で長い構文を用いる傾向があり、簡単で短い文章と比較して了解性が低くなく可能性がある。 5.被験者の属性と発音明瞭度、発話了解度との関連について、次年度以降の分析により明らかにし、被験者の属性に即した検査方法を検討する必要がある。
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