前年度までに実施した検査材料(単音節検査、単語検査、絵画説明方式による自由発話検査)を一部修正し、これに無意味音節材料(VCVの2音節)を加え、聴覚障害学生60名を対象に検査を実施した。この結果を対象者の属性との関連で分析した結果、以下の事項が明らかにされた。 1.本研究において作成した発語検査用音読リスト及び絵画説明方式による自由発話検査は、音声連続における発音の技能を評価する際に有用である。またこの両検査と単音節発音明瞭度検査の結果を併せて評価することにより、対象者の発音の分節的な要因と超分節的な要因に関する技能を概ね把握することができる。 2.平均聴力レベルが90dB(HL)を越える対象者に関しては、歪みがみられる音節が多い場合とそうでない場合に、スピーチの状況が著しく異なる場合がある。したがって単音節検査の結果のみからスピーチの状況(発話了解度)を把握するためには、検査音節全体の明瞭度(発音明瞭度)の値に加え、音節別の明瞭度をもとにした誤りの傾向を示す数値(例えば「歪み」と「置換」の比率)を算出する必要がある。 3.聴力の障害の程度が重度で、幼少期に音素、音節レベルから構音を習得した対象者の中には、音読の速度により構音に顕著な違いがみられる事例が少なからず認められた。一方、聴覚の活用に優れた者の中には、音読の速度が速すぎるために構音が不正確になっていると思われる事例がみられた。検査においてはこの音読速度に関わる要因を統制するため、特に構音の巧緻性を評価する目的で単語や無意味音節連鎖を材料とした検査を行う場合には、検査語の別に音読時間を一定の範囲に定める必要があろう。
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