李氏朝鮮王朝時代後期(17世紀末〜19世紀中期)の大丘地方の戸籍を利用し、地域社会における姻戚関係の実態、ならびにそれと地域間の人口移動の関係について分析し、近世における農民の階層分化という歴史学が注目している問題に一つの実証的検討方法を提示するとともに、従来の人類学的フィールドワークが分析してきたきた親族集団について、それらが含意する「地域に定着すること」の意味を再検討するのが本研究の目的である。 本年度は、以下の作業を行なった。 隣接する6個集落(祖岩坊一里、二里、上仁里、月脊里、遠徳里、蔡亭里)の1690年(I期)、1732年(II期)、1783年(III期)および1858年(IV期)の戸籍(合計約1400世帯)についてのデータ・ベース(平成5〜6年度科学研究費補助金一般研究(C)「韓国の地域社会構成に関する歴史人類学的研究」により作成)をもとに、各世帯の戸主の外祖および妻の系譜から当該6個村内での通婚関係を明らかにして、その情報をデータ・ベースに追加する。 この作業は、各戸の記録に含まれる戸主の妻の系譜ならびに戸主の外祖の姓名・本貫を、データ・ベース全体と突き合せるという非常に煩雑な手続きを含むものであるが、その大半を完了した。 このデータの完成により、次年度は、各時期の村落構成世帯を比較し、各時期間に新たに移住してきた世帯について、その移住に妻方/母方の紐帯が利用された可能性を検討することができる。
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