八重山大阿母と久米島君南風の態様と変遷について、平成7年度は聞き取りを主とした石垣島での30日間の本調査、久米島で6日間の予備調査と、沖縄本島で文献の収集を行なった。その結果、現在の八重山大阿母の属性と継承過程、儀礼の実修ならびに、先代と先々代の属性・経済状態・その立場などの態様と、役職継承の実際についての情報を得、さらに神役に関する人々の考え方を、大筋で把握できた。まだ研究の途中であり、結論を出すことはできないが、シャーマニズム的部分に限っては、八重山では宮古島ほど濃密ではないにせよ、従来いわれていたよりも、遙かに強く、祭祀者の属性として欠かせないことが分った。しかし、特定の家筋に帰属するという観念も、それと相半ばするものであることが確認された。 久米島に関しては、現君南風と先代について、その属性と継承過程についておおよその知識を得ることができ、久米島についての文献もほぼ収集を終えた。予備調査を終えた段階でのものであるが、久米島ではシャーマニズム的属性はほとんど見当たらず、家筋あるいは特定の家への帰属が、君南風の継承および役を保持する要因であるとの感触を得た。 以上から、本年度までの研究において、地域祭祀におけるシャーマニズムの要素の濃淡と、明治以降のノロ職の権威の継承保持とは、かなりの相関性があることがはっきりしてきた。ただし、単純な連関ではないことも明らかになった。この役職を支えるか消滅に導くかは、琉球王府との心理的距離、役職者の家の財力、村落の祭祀との繋がりの強弱なども関係しているのである。また明治以降、その時々の各地域の政治的傾向や家の盛衰を含む地域の経済状況も、ノロという職のあり方に大きな影響を与えていたと推測される。なお、同役職について、その権威を中央の保証に求めるという思考は、戦後まで継続していることが判明した。
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