平成8年度は以下の調査を行なった。久米島具志川村で君南風に関する聞き取りと稲大祭の参与観察を、また、具志川、西銘、兼城の各ノロ、さらに仲里村に通い、儀間、比嘉、宇根、比屋定、城のノロに関する継承と人物について聞き取り調査を行なった。石垣では豊年祭の参与観察、以前のホールザ-とツカサについての聞き取り、家譜資料の収集を行ない、那覇で久米、石垣から移住している祭祀の関係者に聞き取りを行なった。 まず、君南風はプリ-スト的な存在で、神がかりの要素は資質として必要性がなく、継承は特定の家筋帰属が条件であることが確認された。ただ、そこに神の意志という要素も暗示的に存在している。ノロについては、現在、具志川、儀間、城の3名しか存在しない。ノロの継承は城ノロのように完全な父系血縁から、様々な継承を行なっているものまで雑多な状況である。従来の研究が示してきたように、理念としての家筋による継承観念は強い。しかし城以外では、君南風では暗示的であった神の意志という考え方は、より明確な形で表れている。つまり人々の意識に家筋という原理の前提に神からの承認という感覚が、大なり小なり存在しているのである。 次に、石垣島ではホールザ-は1700年代から先代までは、山陽氏の系統に絡んだ継承がなされ、昭和初期までプリ-スト的要素が強かったが、その後はシャーマニズム的な展開が見られる。また、先の意識は石垣ではさらに強いことが明らかになった。ただ、この状況が何れの島においても、どの程度まで遡れるかは定かではない。 なお、沖縄県知事によるノロ職継承の認可は、昭和10年前後まで行なわれていたことが確認された。
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