茨城・埼玉・大阪3府県の農地改革ならびに地主制に関する史料調査とその蒐集に努めると同時に、茨城県下の実証分析を進めた。この実証研究の主要テーマは、(1)個別地域における地主制の実態の解明、(2)茨城県の特質である畑作地帯の地主制の動向と農地改革との関連、の2点である。 (1)では、鉾田地域を対象に隣接する数か村にみられる地主制展開の度合い(小作地率を基準とする)が相当に異なることを明らかにし(明治末の段階で、小作地率が32%の村から83%の村までが存在し、その格差の大きいことが確認できた)、県や郡レベルの平均小作地率からは読みとれない地域独自の構造を検出した。また、総和地域では旧香取村を取り上げ、同村における戦前の農業構造と地主制の動向(小作地率・土地所有規模・経営規模等々)を検討し、5〜10町歩規模の土地を所有する地主と、1〜5町歩規模の土地を所有する自作地主の存在が明らかとなり、同村が典型的な中小地主地区であることを検証した。 (2)では、茨城県農業の地域的類型(稲作・畑作地帯別)を設定し、そこにおける畑作地帯(猿島・鹿島郡)の地主制の推移の特質と、農地改革の結果との関連を追求し、同時に、茨城県地主制の特質(中小地主の分厚い存在)が、農地改革後の残存小作地率の高さ(茨城県平均14.3%、全国平均9.9%)となって表れたことを検出した。 また、(3)戦後の農地改革を明治維新期の地祖改正と対比し、その土地改革における共通点(旧体制からの連続面)と異質点(地租改正=強固な土地所有権の創出、農地改革=土地所有権の一部否定と強固な耕作県の確立)とを明らかにすることで、農地改革の歴史的意義を確認した。
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