平安京の社会構造や信仰形態の多面的な解明を目指した。平安京の文化・祭礼や信仰・年中行事については、第一に<御霊>信仰の成立過程を分析した。<御霊>=怨霊のみでなく、神や山稜のタタリを分析し、その中から<御霊>信仰の成立を見通した。折りから、日本文学でタタリの研究が盛行し、脱境界的な共同研究が可能となった。また、山稜の<陵寺>の誕生を山稜のタタリの観点から位置づけ、平安京周辺の御願寺の一側面を検討した。 第二に、平安京の祭礼・年中行事の精細な検討のため、『年中行事絵巻』をデジタル・データ化した。『年中行事絵巻』は京中の年中行事を対象とし、祭礼や都市景観を数多く描写する。手始めに、各画面に対応する文字情報を入力した。これによって、『年中行事絵巻』の絵画情報の文字検索が可能となる。詳細な分析は今後の課題であるが、平安京の祭礼や景観を容易に絵画で認識できるようになった。 平安京の社会構造については、祭礼や年中行事との接合のため、日常性に着目しつつ課題を設定した。第一に、下層の住み込みの女性を主題にそのライフ・サイクルを考察した。第二に、『今昔物語集』の活用の歴史を検討し、その積極的な活用を試行した。平安京の<兵>(武士)をテーマに、『今昔物語集』に固有の史料を使用し、<兵>と盗人と「霊界」(妖怪)の相関を解明した。なお、当初は『年中行事絵巻』など絵画史料を活用し、平安京の社会構造を分析する予定であったが、これは残念ながら未遂となった。
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