本研究の課題は、(1)瀬戸内海地域の市と町の形成の特質について検討し、(2)ついで近世前期の町人や商人の諸役および経済活動、その居住空間の特質について論じ、(3)そして都市の自治の特質を明らかにすることであった。これらすべてを明らかにすることはできなかったが、備後尾道を中心として、以下に新たな知見等を要約する。他の都市の資料も収集しているが、これは他日を期したい。 1.尾道の都市空間と町の成立について (1)中世後期の尾道の都市的集落の発展はめざましいが、それは門前空間に市場が付属しながら発展した。 (2)戦国期から近世初頭にかけて、海岸部の埋め立てが進み、そこにのちの自治を担った新たな商人群が登場し、門前空間としての性格は後退していく。 (3)そして都市空間は町・(小路)-町組-惣町の重層的構成となり、都市民の統合が達成されていった。 (4)1610年代になると年寄5名と月行司60名の体制が成立し、自治組織は整備され、町の開発も進行した。 2.都市民の経済活動について (1)瀬戸内の港町で17世紀半ばに問屋仲間が公認されていったのは、国家的「役」負担に対する反対給付と治安対策的側面が強い。 (2)尾道において問屋仲間の成立は明確にしえないが、17世紀の段階では問屋的商業はすでに成立していた。 (3)18世紀に入ると、尾道では各種の商人仲間を中心として、商品及び金融取引が発達し、また自治組織も一段と整理されていった。それは尾道における近代的商業の出発点と評価されるものであろう。
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