本年度は、長崎県生月島の壱部集落の隠れキリシタンの行事-納戸神を預かる宿(つもと)の代表者による「六ヶ所寄り」を取材し、宿をあずかるメンバーの違いによっては「歌おらしょ」の旋律形態が異なることが判明した。また、従来、正月二日に行われていた行事「もちならし」の儀式も、今年から廃止されることになり、ここ数年来のうちに現キリシタンの生活に合わせた行事の見直しがなされていることも判明した。また、キリスト教の復活祭に相当する「上り(あがり)」の儀式も収録することにより、キリシタンにとっての「おらしょ・歌おらしょ」の存在意義を考察する手立てとなった。 一方、これまで研究してきた(1)450年前にザビエルたちによって初めてもたらされた西洋音楽の実態-(1)大分を中心に当時歌われていたグレゴリオ聖歌の実態や(2)伊東マンショたち天正の少年使節が当時ヨーロッパで聴いた西洋音楽の実態、(3)彼らが持ち帰った西洋の楽器の実態などと、(2)1614年のキリスト教禁止後の潜伏を経て現在まで生月島の隠れキリシタンの人々によって伝承されている「歌おらしょ」の実態の概要をまとめた著書『南蛮音楽その光と影-ザビエルが伝えた祈りの歌』を音楽之友社から出版することができた。 その後、その著書で明らかにできなかった西洋音楽伝来に関する資料も整いつつあり、また、隠れキリシタンの新たな変容の実態も明らかになりつつあり、いずれ違った形で発表する予定である。
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