本年度は、昨年度に出版した『南蛮音楽 その光と影-ザビエルが伝えた祈りの歌』(音楽之友社)を基盤として、それで記述できなかった事象を、「キリシタン研究」(キリシタン研究会編:第1輯から現在までに発刊された分)を通して明らかにしようとした。この史料研究と平行して、1997年2月5日が、秀吉のもとで起きた『日本26聖人殉教』から400年の節目に当たったため、1996年5月からNHK長崎放送局と連携して、それに相応しいレクチャー・コンサートを企画・構成し、同年11月17日に『東の音・西の音-音楽は時空を超えて』と題した演奏会を、長崎中町教会で開催することができた。その中では、西洋音楽氏家の皆川達夫氏との対談を通して、前半は、400年前に日本に初めて伝来した西洋音楽の実態を、後半は長崎・生月島の「隠れキリシタン」によって口承伝承されている「おらしょ・歌おらしょ」の実態を明らかにした。まさに、拙書『南蛮音楽 その光と影』をコンサート化したものであった。この演奏会の模様は、1997年1月1日に、NHK・BS2で放送されたり、同25日には、NHK・FM放送で紹介された。この演奏会の企画・構成を通して、隠れキリシタンが保持している「納戸神様」がもう一つあり、その存在の裏に、さまざまな人間模様が隠されていることが判明した。彼らの伝承内容は、400年前から現代に至るまで、その時々に応じた時代的背景により自在に「変化」してきたものと、やむなく「変容」せざるをえないものがあったものと思われる。この後は、その変化と変容部分を明かにする予定である。
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