本年度は、研究の最終年度ということもあり、学生時代に「歌おらしょ」を五線譜化したもの(1975年)をベースに、その後の取材・収録分(1991・93・95・96・97)を新たに五線譜化し、それらを比較して、この20年間の「変容」の度合いを明らかにした。その結果、3曲の「歌おらしょ」のうち、「ぐるりよざ」は、予想に反して、さほどの変容が見られないことが判明した。それは、日本人に覚えやすい旋律にすでに変容してしまっているのではないか、とも推定される。一方、他の「らおだて」と「なじょう」の2曲は、とくにここ数年のうちに、つまりこの研究期間のうちに、極端な変化がなされてしまった、という結果がでた。それは、「ぐるりよざ」に比べると、この2曲は店舗も遅く旋律の上がり下がりが少ないだけに、覚えにくいこともその原因の一つとして考えられる。この研究期間には、すでに廃止された行事もあり、これらの研究から、2000年に向けて、隠れキリシタンの伝承する「歌おらしょ」自体の変容の度合いがさらに加速化することが懸念される。他方、400年前に伝来した南蛮文化の全容を解明するためには、当時日本で出版された「ラテン語・ポルトガル・日本語対訳辞典」の全容の解明も、今後の課題として残った。とりあえず、この3年間の研究期間は、21世紀に向かって、隠れキリシタンの「歌おらしょ」が確実に伝承されるか否かを占う、まさに過渡期として、極めて重要な時期であるとともに、引き続き追跡調査する必要性をも感じた。
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