7年度から9年度にわたる研究成果は、次の3つに区分される。 その1つは、1.450年前にフランシスコ・ザビエルたちによって初めてもたらされた西洋音楽の実態-(1)西洋音楽発祥の地とされる豊後府内(現大分市)を中心に歌われていたグレゴリオ聖歌や演奏された弦楽器の実態、(2)天正遺欧使節・伊東マンショたちがセミナリオで習った西洋音楽の実態、(3)彼らがヨーロッパで聴いた音楽の実態、(4)彼らが持ち帰った西洋の楽器の実態、(5)秀吉の前で演奏された西洋音楽の実態、2.1614年のキリスト教禁止後の潜伏期間を経て現代まで長崎県・生月島壱部集落の隠れキリシタンによって歌い継がれる「歌おらしょ」の実態を明らかにし、『南蛮音楽 その光と影-ザビエルがもたらした祈りの歌』として出版することができた。 2つ目は、そうした史料研究の一方で、450年前の日本における西洋音楽の実態を実際の音として推定・再現するレクチャー・コンサートを毎年度企画・演奏し、その歴史的存在を広く示すことができた。 3つ目は、壱部集落の隠れキリシタンの行事を取材・収録したものの中から3曲の「歌おらしょ」を抜き出し、学生時代に五線譜化した分(1975年)と比較して変容の度合いを調査するために、新たに1991・93・95・96・97年分を五線譜化した。その結果、テンポの速い「ぐるりよざ」のこの20年の変容は少なかったが、「らおだて」「なじょう」には、かなりの変容が見られ、21世紀に向けての伝承の在り方が懸念されるところである。 こうした研究成果が得られた一方で、今後のさらなる史料研究とさらなる追跡調査の必要性もを痛感した。
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