近世の江戸における寺社開帳の開催場所の地域的特徴を、とくに居開帳を中心として考察した。江戸における寺社開帳の開催場所については、隅田川をはさんだ浅草、本所、深川の地域が中心であったとされているが、居開帳と出開帳とにわけて、その開催場所を詳細にみていくと、必ずしもそうとはいえない面があるからである。 江戸における居開帳開催場所の地域的特徴を、居開帳回数の多寡によって眺めると、100回以上の居開帳が実施された地域として、芝・三田・品川地域、浅草・御蔵前・今戸地域があり、江戸で実施された居開帳の約31%がこれらの地域で行われていた。次に80回〜60回の居開帳が実施された地域として、大塚・音羽地域、本所・亀戸地域、目黒・千駄ヶ谷地域、市ヶ谷・牛込地域がある。これらの地域で行われ居開帳は全体の約40%を占めている。そして、隅田川・葛西・向島地域、下谷・日本橋・神田地域、湯島・本郷・小石川地域、赤坂・青山・麻布地域、深川地域は居開帳回数50回以下の地域で、これらの地域では全体の約29%の居開帳が実施されていた。 こうしたことから、江戸で実施された居開帳の開催場所は、居開帳回数の多寡によって以上のように大きく3つのグループに分類することが可能である。そして、出開帳が実施されていた地域との比較でその地域的特徴をみれば、まず第一に出開帳はそれ程盛んでもなかった芝・三田・品川地域で居開帳が最も盛んに行われていたことが挙げられる。そして、出開帳が盛んに行われていた浅草、本所、深川の地域についていえば、浅草地域では居開帳も盛んに行われていたが、本所、深川地域では居開帳はそれ程盛んではなく、とくに深川地域では居開帳が最も少なかったということができる。他の地域では全ての地域で出開帳回数より居開帳回数の方が多い。 次に、居開帳実施宗派についてみれば、天台宗、真言宗、日蓮宗、浄土宗などが盛んで、これは出開帳を盛んに実施した宗派と同じ傾向である。
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