(1)平成7年度に、科学研究費によって購入したパーソナルコンピュータ、およびその周辺機器(スキャナー等)、および今年度新たに購入した応用ソフトウエア類を利用し、公家の記録、古文書類などから宮廷での公卿会議に関する史料のデータベース化を行った。今年度は、平安末から鎌倉初期の作業と、その部分の政治史的分析を遂行した。併せて、今年度から、公家関係裁判史料の収集と整理も開始しており、そのために鎌倉遺文全巻、ならびに南北朝遣文を購入した。 (2)歴史学におけるコンピュータ利用の方向性を探るため、千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館において、その画像処理関係システムの見学、調査を行った。また、史料収集のため、東京の東大史料編纂所・内閣文庫などを利用した。 (3)具体的な今年度の研究成果は、次の通りである。院政期・鎌倉初期の「国家大事」の網羅的分析によって、白河院政後期(1107年以降)、その審議の場が、内裏から院御所に移動するのは、ほとんど寺社強訴・騒乱に限定されることがわかった。たとえば、叙位除目・改元・伊勢神宮関係などは、いずれも内裏で審議され続ける。天皇の支配権を象徴する「国家大事」として、国家祭祀権・時間支配権・人事権などを「内裏」という場で審議し続けることが、院政のもとでの「天皇」の位置づけを明瞭に示す。院は寺社強訴や騒乱などの主従制的側面を主要因とする問題では表面に立ち、その他の部分では「口入」の形で「国家大事」に関与する。院政において、院が「国家大事」を、天皇が「常祀・小事」を担当すると見ることはできない。
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